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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)220号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人関藤次の上告理由第一点について。

所論は、自作農創設特別措置法六条の二、六条の五のいわゆる遡及買収の規定は憲法三九条に反する無効の規定であると主張するのであるが、刑罰法規については、憲法三九条によつて事後法の制定は禁止されているけれども、民事法規については、憲法は法律がその効果を遡及せしめることを禁じていないことは当裁判所大法廷判決の明示するところである。(昭和二三年(オ)一三七号事件、同二四年五月一八日大法廷判決、集三巻六号一九九頁)従つて、自創法施行以前にかかる昭和二〇年一一月二三日現在における事実関係に基いて農地買収を行ういわゆる遡及買収をもつて、所論のように憲法三九条に違反するものとすべきでないことは、右大法廷判決の趣旨に徴してあきらかである。

また、論旨は、いわゆる農地の遡及買収は、国民の有する既得権を侵害するものであるが故に憲法二九条に違反すると主張する。しかし、自作農の創設維持は、わが国年来の農地制度に関する国策であり、終戦後強力に推進された自創法による農地の買収も結局この国策の線に沿うものであつて、公共の福祉を増進するための施策であることは、また既に大法廷判決の判示するところであり(昭和二五年(オ)第九八号事件、同二八年一二月二三日大法廷判決、集七巻一三号一五二九頁参照)、右買収が憲法二九条に反するものでないことは数次の大法廷判決の趣旨からしてあきらかである。しかして、同法による農地の買収は、現在の農地の所有者から、その既得の農地所有権を強制的に買収するものであつて、既得権に対する制限たる点においては、同法三条による買収であると、いわゆる遡及買収であるとによつて異るところはなく、論旨がひとり遡及買収についてのみ既得権の侵害を主張することはいはれないものと云わなければならない。

同第二点について。

本件土地について、自創法六条の五により買収することの可否の審議がなされたことは原判決の確定するところであり、同条三項の規定はその他に特別の審議を要求するものでないとした原判決の判断は正当である。

同第三点は原判決の事実認定の非難であつて、適法な上告の理由とならない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克)

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